自衛隊加憲!?
~立場の異なる2人のあすわか弁護士が考えてみた。~

あすわかは、自民党改憲草案に批判的な弁護士の集まりです。改憲派から護憲派までいろいろな考えの弁護士がおり、憲法9条についてもさまざまな考えを持っています。今回は、内山宙弁護士と矢﨑暁子弁護士が憲法9条について対談しました(進行:神保大地弁護士)

内山宙弁護士

その1~そもそも憲法9条はどういうものか

 

  • 憲法9条はどうしてできたのでしょうか?

内山宙:第二次世界大戦後、天皇制を維持したいと考えたアメリカが、それに反対しそうな他の連合国を説得するために戦争の放棄を入れたかったという背景があります。当時の幣原喜重郎首相がマッカーサーを訪問して、自分から言い出したという記録が最近見つかっています。

矢﨑暁子:それに加えて、戦争禁止、武力行使の原則禁止という国際社会全体の流れがあり、侵略戦争を行った日本が特にアジアの国々と信頼関係を結ぶためには、戦争放棄まで必要だと考えたのだと理解しています。

内山:ポツダム宣言でも軍国主義をなくすことが要求されていて、それを受け入れたわけですしね。

 

  • パリ不戦条約(1928年)以降、国際的に戦争は原則禁止とされていますが、9条の特殊性とはなんでしょうか?

矢﨑:自衛権を含めて、一切の武力行使を禁止したという点です。パリ不戦条約で、政策の手段としての戦争は禁止になった。だけど憲法9条は、さらに、自衛のためであろうがなんであろうが一切武力は使わない、だから戦力も持ちませんと、丸裸になったところが特殊です。

 

内山:戦争放棄は国際法上当然だけれど、戦力さえ持たないというのはかなり特殊ですよね。

 

矢﨑:私は、目的が「相手を殺すため」の部隊や武器は「戦力」にあたり、9条のもとでは持てないと解釈しています。

 

内山:私は、9条のもとでも、戦力に至らない必要最小限度の実力は保持してよいという従来の政府解釈の限度で認めている立場です。

 

その2~日本が攻撃されたらどうするの

矢崎暁子弁護士

  • どんな場面を想定するのでしょうか?

矢﨑:攻撃されたらどうするんだ、と言っている人は、具体的にどういう状況を想定しているのか、よく説明できないことが多いです。。

 

内山:陸、海、空、宇宙に加えて、サイバー空間も第5の戦場に挙げられるようになりました。どのような場面かによって、自衛としての「必要最小限度」の幅も変わってくると思います。

 

  • では、具体的な場面として、北朝鮮から短距離ミサイルが日本国内の米軍基地めがけて発射された場合はどうでしょうか。

内山:まず「米軍基地めがけて」というのはいつわかるのかという問題はあります。住宅地に落ちるかもしれない。もし、日本の領空内にミサイルが打ち込まれて、迎撃できる能力があったとしたら、迎撃すべきと考えています。これはまさに、個別的自衛権の範囲です。

 

矢﨑:私は内山さんと違って、ミサイルの落ちる先に住宅があったとしても、迎撃するなという立場です。武力に武力で対抗すべきという考えのもとで、軍事力は拡大してきました。現実的には戦争はミサイル一発では終わらないし、迎撃することで全体の戦闘に発展してしまう。国連の集団安全保障をより素早く活用することで被害をより少なくできると考えます。

 

内山:私の考えでは、反撃により攻撃を押しとどめて被害を減らしている間に、国際社会で話し合って対応していくことになります。

 

矢﨑:「ひとまず攻撃を押しとどめる」といっても、ミサイルを一個一個撃ち落とすのは無理ですし、それを発射している基地や空母を攻撃することになるのではないでしょうか。

 

内山:いま矢﨑さんが言った話は「敵基地攻撃」の話で、専守防衛の枠からは外れていて、できないと思います。

 

  • 日本の防衛戦略は「専守防衛」であると言われています。専守防衛とは、防衛省の定義によると、「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいう」とされています。どの程度の反撃であれば「専守防衛」にあたり「必要最小限」の範囲なのか、イメージは人によって違いがありますね。

内山:私のイメージする「必要最小限」は、あくまで「うちの国から出ていっていただくための」という感じです。

 

矢﨑:「必要最小限度」という概念は、どんどん拡大解釈されてきたという印象があります。「爆撃機やミサイルが領空内に入ってから撃ち落とす」なんてまどろっこしくて、結局敵基地まで出かけていく話になるのではないでしょうか。

 

内山:そうは思っていません。ただ、「必要最小限度」の枠を取っ払ってしまうと、敵基地攻撃の話になって、どんどん先に行ってしまいます。自民党のやり方で自衛隊を明記すると、その危険性が高いと思っています。

 

 

その3~自民党の考える9条改憲とは

  • 2012年の自民党改憲草案では、「国防軍」を創設すると書いてありますが、これについてはどう思いますか。

内山:まず、9条2項を削除して「自衛権の発動を妨げない」とした中に、集団的自衛権が入ってしまいます。そこに「必要最小限度」という縛りが入ってくる余地がありません。

 

矢﨑:改憲草案の1項に「国際紛争を解決する手段としては用いない」とありますが、同じような文言が書かれたパリ不戦条約も「戦争は放棄しても自衛権はある」みたいな解釈になっちゃったんですよね。

 

内山:あと、自民党草案の国防軍は国内の治安維持活動ができることにしています(草案9条の2第3項)。軍隊が銃を持って国内をうろついて、何か変な言論活動をした人を捕まえるわけです。

また、軍法会議を作るということで、軍人さんが裁判します。自分たちが自分たちを裁くという話になって、民主的コントロールが及ぶはずがありません。

 

  • 専守防衛に限定して自衛隊に対する縛りをがんじがらめに書き込む形での憲法改正(立憲的改憲論)を提案する人もいます。

内山:その立憲的改憲が実現するかというとそれは厳しいとは思いますが、自民党が本当に条文化したものを出してきたときにこれをぶつけて、何の制限もかけられていないじゃないかということで、自民党案の問題点を浮き彫りにするものではあると思います。

 

矢﨑:私は非武装を貫くべきという考えですが、自衛隊に「専守防衛」だけを望む人にとっては、いいアイディアだと思うんですけど。

 

内山:でも、その案は通らないので、それを実現させるためにエネルギーを割くことはしませんし、9条もこのままでいいという考え方です。自民党も立憲的改憲には乗れないと思います。

 

  • 安倍首相は、9条の条文に自衛隊を明記することを提案していますが、それはどういう意味があるのでしょうか。

内山:集団的自衛権を容認している状態で自衛隊を明記するということは、それを行使する自衛隊になり、違憲状態になります。

 

矢﨑:そう思います。自衛隊を憲法に明記すべきだという議論は戦後ずっとありましたが、昔から議論されてたものと安保法制ができた今の加憲論とは全然違う。

 

  • 集団的自衛権が合憲化されてしまうこと以外に、自衛隊を明記することは問題がありますか。

矢﨑:「必要最小限度」という言葉の解釈の流動性それ自体が問題です。9条は、明文上、武力を全面的に禁止してるわけです。だからこれまでは、条文にない例外を正当化するためにはかなり複雑な解釈をしなければならない、という縛りがあったのですが、ぼんやりとした条文の形で例外が明記されると、その条文を用いた拡大解釈が非常に容易になると思います。そういう意味でも私としては個別的自衛権に限定した改憲にも乗れないです。

 

内山:こういう人がいるのはよくわかります。必要最小限度って幅があるから。

また、軍隊という実力組織を憲法に書き込もうとするのに、それをコントロールする方法を何も書いてないというのは、さすがにありえないと思います。

 

  • 9条に限らず、憲法を変えたいとは思わないの?

矢﨑:私はね、天皇制をなくしたいです。あとは、24条の「両性の合意」という文言を「当事者同士の同意」とするとか。解釈によって人権を矮小化されないように文言を改める、ということも含めて、改憲自体はしたいです。

 

内山:あすわかの人たちって、がちがちの一字一句変えるなという人なのかというとそうじゃない。あと、臨時国会の召集の請求が出てきたら二十日以内ぐらいに開け、と書き加えるとかね。

 

  • これからやりたいことはありますか。

矢﨑:私は、もっといろんな考えの人たちと話し合いたいです。安全保障とか平和の問題ってすごい大事なことで、そういうのを普通に話せる社会にしたいなと思う。みんな違う考えを持ってるんですが、話し合って、こういうふうに考えてるんだなと理解できれば信頼しあえると思います。

 

内山:とにかく、憲法を身近なものにしたいですね。憲法でゲームをつくりたいです。

 

ありがとうございました!